
UMIUMA JOURNAL
フカヒレの老舗が挑む、気仙沼の食と未来。
“本質に真面目”であることを大切に。
フカヒレの名産地である宮城県気仙沼市で、1957年に創業した株式会社石渡商店。フカヒレ姿煮やフカヒレスープなど、数多くのフカヒレ加工品を手掛ける老舗として知られています。同社の歩みを支えてきたのが、創業当時から変わらないものづくりへの姿勢です。
「商品づくりには面白さを持って取り組みます。でも、素材をごまかさず、本来の力を引き出すという意味で、“本質に真面目”であることを何よりも大切にしています」。そう話すのは、三代目で代表取締役の石渡久師さんです。
その精神は、大手食品メーカーの研究者だった創業者・正男さんから代々受け継がれてきました。創業当時には、生のフカヒレから皮や骨、肉などを取り除いて乾燥させる「スムキ(素むき)」という加工法を開発。今では世界共通のフカヒレ用語として使われています。また、フカヒレの命ともいえるコラーゲンを壊さない技術や、蒸気を使った独自の製造方法など、科学的な検証を重ねながら技術を磨いてきました。
「フカヒレは重量で値段が決まるので、あえて重くなるような加工をして利益を出すこともできます。でも、うちではそういうことは絶対にしません。さまざまなアプローチから素材が持っている力を引き出すことを目指しています」。
そう話す石渡さんが家業に入ったのは23歳の頃。当時、体育教師を目指し、陸上競技やモトクロス、スノーボードに打ち込んでいましたが、「フカヒレを覚えるには20年かかる」という二代目の言葉を受け、家業を継ぐことを決意します。
入社後、フカヒレの加工技術や品質へのこだわりを学びながら経験を重ねていた2011年に東日本大震災が発生。工場は津波で全壊し、フカヒレの在庫も失いました。それでも2012年には新工場を完成させ、いち早く復興への一歩を踏み出します。
ところが、その翌年に中国で「ぜいたく禁止令」が施行され、需要が急減。フカヒレだけに頼る経営の難しさを痛感した石渡さんは「フカヒレに続く新しい柱をつくらなければ」と考えるようになりました。
その時に目を付けたのが、気仙沼の牡蠣です。震災後に産地を訪れた石渡さんは、産卵前の春の牡蠣に注目します。旬とされる冬のものより栄養豊富で味が良いにもかかわらず、市場価格は安く、生産者が十分な利益を得られていないことを知ったのです。
「地元の食材を使って、地域の役に立ちたいと考えていたので、この牡蠣を適正な価格で買い取って商品として生かせないかと考えました」。
そして石渡さんが開発したのが、「気仙沼完熟牡蠣のオイスターソース」です。実はオイスターソースへの挑戦は三度目。初代、二代目の挑戦は大きな成果につながりませんでした。しかし、当時3歳と1歳のお子さんの子育て中だった石渡さんは発想を転換し、「子どもと一緒に味わいたいオイスターソース」というコンセプトを提案。牡蠣を酵素分解し、身を丸ごと使う独自製法によって、牡蠣本来の旨みを引き出しながら、化学調味料を極力使わない商品を実現。会社を代表する人気商品へと成長しました。
「石渡商店らしさ」を大切に、未来へ挑み続ける。
新商品のアイデアが生まれる場所のひとつが、石渡さんの自宅のキッチンです。世界各地で出会った食文化やシェフ、お客さまとの会話をヒントに試作を重ねます。しかし、その多くは商品化されることなく終わるそうです。
「石渡商店として出す意味があるのか。“商品の家系図”に入れられるかどうか、それが商品化の判断基準です」。
どんなに面白いアイデアでも、これまで培ってきた技術や想いにつながらなければ世に出すことはありません。一方で、フカヒレや地域の食材を生かした商品であれば、形にとらわれず積極的に挑戦しています。
サメを余すことなく活用したいという思いから開発したペットフードも、そのひとつです。現在では「ペットフードを作ってみたい」という水産加工業者が石渡商店を訪れることも少なくありませんが、石渡さんは製法やノウハウを隠すことなく伝えています。
「自分が得た経験や情報はすべて共有します。アウトプットすると、新しいことを吸収する余白ができるし、今度は相手から別の情報が返ってくるんですよ」。
自ら得たものを地域や同業者に還元しようとする姿勢。その根底には、東日本大震災での経験があります。震災当日、石渡さんは上海へ出張中で、被災した現場に駆け付けることができませんでした。そのことが今も心に残り、「自分にできることで地域に貢献したい」という思いが、新たな挑戦を続ける原動力になっています。
「とはいえ、ずっと打ち込んでいたのも個人競技ですし、『みんなで一緒に』というタイプではありません」と石渡さんは笑います。「自分が得意なのは、地域の素材や商品、会社の魅力を高めることです。その積み重ねが、結果として気仙沼全体の価値を高めることにつながればうれしいですね」。
受け継いできた本質を大切にしながら、商品や素材の可能性を広げていく。その挑戦の先に、石渡さんは気仙沼の新しい未来を思い描いています。
COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社