UMIUMA JOURNAL
北三陸の“漁業の村”で56年。ここになくてはならないもの。なくしてはいけないもの。
2,500人の村に、3つの漁港。
岩手県の北東部、北三陸に位置する普代村。人口2500人あまりの小さな村に、漁港は3つあります。村の沖合には、寒流の親潮と暖流の黒潮のぶつかる潮目があり、漁港にはサケやヒラメ、イワシ、イナダなどたくさんの魚介類が水揚げされ、ワカメやコンブの養殖も盛んな漁業の村です。
その漁港の中でも、村の漁業基地となっている太田名部(おおたなべ)漁港から車で10分ほど。緑豊かな山の中に本社工場を構えているのが、1968年創業の水産加工会社・株式会社越戸商店です。
看板商品は、目利きが選んだ大粒のイクラの醤油漬けや、濃厚な旨みが詰まった生ウニ、専用工場で蒸し上げるタコ、そして村の特産品として知られるワカメなどの海藻類です。
「何よりも鮮度と素材にこだわっています。商品の主要な原料は、すべて地元産です。前浜で水揚げされた魚介類は、その日のうちに自社工場で加工し、地元の味をそのままお届けすることを大切にしています」。そう話すのは、越戸商店の越戸弘樹さん。さらに妻の菜摘さんは「春はワカメ、夏はウニ、秋は秋鮭など、普代村は季節によってとれるものが全然ちがうので、さまざまな商品を作ることができます」と言い、「私が大学で東京に行っていたときにも、わかめなどはわざわざここ(普代村)のものを送ってもらっていました。それくらい、味がちがうんです」と教えてくれました。
地域一丸となって、普代ブランドの確立へ。
埼玉県出身の弘樹さんは大学卒業後、愛知県で自動車関連の仕事に就いていましたが、越戸商店の越戸優代表取締役のご息女・菜摘さんと結婚するタイミングで、同社へ入社しました。
現在では、魚介類の買付や営業、経営などに携わっている弘樹さん。まったく畑違いの業種からの挑戦でしたが、その決断に迷いはなかったと言います。
「菜摘から話を聞いて、この会社や技術、地域の水産業はなくてはならない、なくしてはいけないものだと思い、越戸商店に入ることを決めました」。
しかし、当然やることは初めてのことばかり。「試行錯誤しながら業務にあたっています」と笑う弘樹さんですが、その時に助けてくれたのは意外にも、地域の水産加工会社の方々でした。
「魚の目利きなど買付で困っていると、他社の方々がいろんなことを教えてくれたんです。言ってしまえば競合相手でもあるのに、みなさん温かくサポートしてくれて驚きました。前職では考えられないことでしたし、“漁業の村”としての歴史や団結力のようなものを感じました」。
ますます「地元のために」という想いを強くした弘樹さんですが、他の地域と同様、普代村の漁業も収穫量の減少や漁師の高齢化といった問題を抱えています。
菜摘さんは「魚がとれなくなって、地元に残りたくても残れない人も増えています。水産業を盛り上げることで、地域の活性化につなげていきたいと思っています」と話し、弘樹さんは「地域一丸となり、みんなで知恵を出し合って“普代ブランド”をつくりあげていきたいです。私たちがその牽引役になれれば」と、これからについて語りました。
そのために熟練の職人の技や多彩な設備を活かし、国内外のニーズを把握しながら付加価値の高い商品づくりに努めている越戸商店。水産物の価値や漁師の収入向上に向けて、地域を巻き込んだ活動を進めていきます。