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株式会社おのざき
2025.12.26

いわきに根付いてきた“個性”を、次の100年へ。

大正12年創業。県内最大級の魚屋。

「約100年前の創業時から、いわきで獲れる“常磐もの”をはじめ、上質な鮮魚にこだわってきました。今は魚を獲ること以外、全部やっているような感じですね」。そう話すのは、株式会社おのざきの4代目・代表取締役社長の小野崎雄一さんです。

県内最大級の魚屋として、鮮魚店4店舗と飲食店2店舗に加え、卸売業やEC事業、商品開発などを展開している、おのざき。その歩みは1923年、創業者の小野崎ウメさんが、鮮魚店としていわき市平鎌田町で創業したことに始まりました。その後、2代目・小野崎英雄さんが1973年に法人化し、大型商業施設「やっちゃば」への出店など店舗を拡大。さらに2009年には3代目の小野崎幸雄さんが代表となり、お客さん一人ひとりとの会話を大切にした接客で、売上を増やしていました。

しかし、2011年に東日本大震災が発生。小名浜港のすぐそばにあった直営の寿司店が津波で流され、鮮魚店は冷蔵庫や水道管が破損するなど大きな被害を受けました。それでも幸雄さんは3日後に営業を再開し、地元のお客さんたちに大変喜ばれたといいます。また、その後には地元の同業者を励ますため、風評被害の払拭を目指すプロジェクト「ふくしま海援隊」を立ち上げ、地元の水産加工品を抱えて首都圏のイベントに何度も足を運びました。その頃のことを、当時中学3年生だった雄一さんは「父は指揮を執って危機対応にあたっていたので、ほぼ家にはいなかったことを覚えています」と話しました。

そして2020年に東京からUターンし、おのざきに入社したのが雄一さんです。大学卒業後、小売店に勤務していた雄一さんは、当時「地元の活性化に貢献できれば」と自身の目標でもあった飲食店の開業を控え、店舗は内装工事まで進んでいました。

しかし、その頃、同社は業績不振に陥っていました。さらに基幹業務に携わっていた社員が相次いで退職するなど、事業が危機的な状況に。そのような中で、父親である幸雄さんから真剣な顔で「入社して経営を助けてほしい」と頼まれ、入社する決断を下したと話します。

左:3代目(現会長)の小野崎幸雄さん

「社員のみなさんが一生懸命働いてくれたからこそ、自分は大学まで進学できました。その会社が大変な状況だと知って、放っておくわけにはいきませんでした」と振り返る雄一さん。さらに「福島という場所だからこそ、魚屋としてできることがあると気づいたんです」と語ります。「原発事故で大きなダメージを受けた水産業の“その後”に世界の注目が集まる中で、水産業の発展に力を尽くすことは、自分に与えられた特別な使命だと思っています」。雄一さんは入社後、経営理念の策定や不採算事業からの撤退、業務改革、EC事業の強化など、矢継ぎ早に改革を進め、会社の業績回復を牽引。2025年4月に代表取締役社長に就任しました。

常磐ものの魅力を伝えるための挑戦。

2024年、おのざきは旗艦店である「おのざき鮮場やっちゃば平総本店」をリニューアルオープンし、「体験型鮮魚店」というコンセプトを掲げました。「ただ商品を買うなら、どこでもいいはずです。消費者アンケートを通じて、お客様が求めているのはエモーショナルな体験だと気付きました。専門店として、そこを追求していこうと思ったんです」と雄一さん。いわき名物の「かつおの火山(藁焼き)」、まぐろの解体ショーといったライブ感あふれるイベントを定期的に開催し、人気を集めています。

さらに、店舗の閉店後に寿司や地酒を楽しむ「サカナイト」、プロの料理家による料理教室など、次々と新しい企画を仕掛けてきました。「特に若い人たちにとって、鮮魚店はなかなか入りにくい場所だと思うんです。そこで、とにかく地域に開かれた場所にしようと思っていて、今後も子ども向けの貝殻アートなど、さまざまなアイデアを考えています」。

また、おのざきでは自社商品の開発にも力を入れています。首都圏の働く30代女性をターゲットに、常磐ものの魚介をジュレ状にゴロっと閉じ込めた「金曜日の煮凝り」。福島県で水揚げされたひらめを離乳食にした「魚は土台(ど〜だい?)パクパク離乳食」。あん肝入り味噌スープ、ヘルシーでコシが強い米粉麺が入った「あんこう鍋米粉麺セット」。さらに2025年10月には福島の酒蔵とコラボし、地酒で三陸や常磐の魚介を粕漬けにした「蔵粕海(くらかすみ)」を販売するなど、従来のイメージにとらわれない商品づくりを行っています。

雄一さんは「例えば“蔵粕海”は、日本一と評価される福島県の日本酒と三陸・常磐の魚という、まさにこの地域ならではのものです。こうした地域にある高いポテンシャルを活かした商品にしていきたいですね」と語りました。

こうした数々の取り組みの根底にあるのは、地域の未来に対する想いです。雄一さんは、次のように話してくれました。

「いわきや福島には、水産文化や魚食文化をはじめ、地元に根付いた豊かな営みが今も息づいています。それをこの会社では“個性”と呼んでいます。ただ住んでいる人たちが、その個性に気付いてないことも多く、このままでは消滅してしまいます。我々がその個性を、魚を通じたさまざまなかたちでしっかりと守り、伝えることで“シビックプライド(市民の誇り)”を育てていければ。そんな想いで次の100年を見据えています」。

これまで地域で築かれてきた100年の歴史や文化を守り、新しいかたちで発展させながら、これからの100年へ。おのざきの大きな挑戦は続きます。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社

株式会社おのざき

住所
〒970-8026
福島県いわき市平字正内町80-1 2F
取扱製品
鮮魚、あんこう鍋米粉麺セット、金曜日の煮凝り、魚は土台パクパク離乳食、蔵粕海 ほか