UMIUMA JOURNAL UMIUMAジャーナル

  • 味付け煮
  • 宮城県
瀧口商店
2025.11.14

“石巻・万石浦から、“おふくろの味”を。

自身のノウハウと思い出を商品に込めて。

宮城県の東部・牡鹿半島の付け根に位置し、石巻市と女川町にまたがる万石浦(まんごくうら)。古くは景勝地として「奥の海」の名で『新古今和歌集』にも記述が残る海で、淡水と海水が混じり合い、牡蠣や海苔などの養殖が盛んです。

その万石浦のすぐそばに、牡蠣や海苔の佃煮などを手掛けている「瀧口商店」はあります。「この海の恵まれた素材を活かし、そのおいしさを多くの人にお届けしたいと思っています」。と話すのは代表の瀧口正さん。万石浦のすぐ近くで育った瀧口さんは、十数年間、地元の水産加工会社に勤務した後、2015年に瀧口商店を創業しました。

「東日本大震災では、当時勤めていた加工会社でも大きな被害が出ました。津波で原料などが流されてしまい、石巻の水産業の先行きを考えることは難しかったですね。そこで農業への転身も考えて、実際に米づくりなども行いました。ただ、やはり海の仕事がしたいという思いが強く、会社を開きました」。

そんな瀧口さんが商品作りで理想にしているのは、ずばり“おふくろの味”です。「幼い頃から口にしていた牡蠣の味噌煮やひじきの素朴でやさしいおいしさが、からだに染み付いているんです。それを忠実に再現したいと思っています」。しかし、味の再現は一筋縄ではいきませんでした。「母に作り方を聞きましたが、家庭料理なのですべて目分量でやっていて。当然、レシピもありませんでした」。

それから商品開発の試行錯誤を重ねた瀧口さん。「味を確かめては分量や時間などを記録し、調整するといった作業を何度も繰り返しました」。こうして瀧口さんが積み重ねてきたノウハウと思い出が詰め込まれた商品が完成しました。「例えば『牡蠣みそ煮』は、他の人から『甘さ抑えた方が売れるんじゃない?』と言われたりしましたが、そこはこだわって変えませんでした。今では『ごはんのお供にぴったり』『酒の肴になる』と言ってくださる方が増え、うれしいですね」。

地元の素材を大切に、新たな取り組みも。

「これまで地域で食べられてきた素材や作り方はもちろん、新しい商品作りにもチャレンジしています」と瀧口さんは話します。

例えば、その一つが海藻の「あかもく」を原料にした商品です。古くから主に秋田などで食べられてきた素材ですが、近年では栄養豊富なスーパーフードとしても注目されており、瀧口商店では旬の時期に万石浦で収穫されたあかもくを松前漬けなどに商品化しています。「ネバネバ、シャキシャキとした食感が魅力のあかもくですが、特に万石浦のものは、他地域のものと比べて粘りが強いのが特徴ですね」。瀧口商店では、一般的に加工が難しいあかもくを、食べやすさや料理での使い勝手を考えて細切りにするなど、手間暇を掛けて工夫しています。

また、以前には石巻の大学と連携し、学生の商品開発も後押し。東松島産の海苔を使った商品の開発に協力するなど、若者が地域の魅力にふれ、自らのアイデアや想いを事業に発展させる貴重な機会を創出しました。「水産業の高齢化や人手不足は、万石浦でも大きな課題になっています。若い人たちが水産業で食べていけるような取り組みが大切だと思います」と瀧口さん。最近では、石巻にあるたらこの加工会社とコラボレーションした商品を生み出すなど、精力的に活動を続けています。

瀧口商店が湊水産株式会社と手掛けた「海苔たらこ」

「当店は地元の道の駅に商品を置かせてもらうことから始まり、全国の商談会などに出向き、実際に商品を味わってもらい地道にお客さまを増やしてきました。今では仙台空港などでも取り扱ってもらっています。これからも万石浦や石巻の素材にこだわりながら、手作りの“おふくろの味”のおいしさを広めていきたいですね」と瀧口さん。商品の味わいのような、やさしい笑顔でそう話してくれました。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社

瀧口商店

住所
〒986-2135
宮城県石巻市渡波中三勺1-66
取扱製品
牡蠣みそ煮、牡蠣しょうが煮、味付けあかもく ほか