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有限会社スズ市水産
2025.10.24

海女の町から、房州のおいしい魚を。

漁船を降りて、加工の道へ。

千葉県南部、南房総市千倉町。豊かな漁場に恵まれたこの地で、水産加工と鮮魚出荷を手がけているのが有限会社スズ市水産です。

「子どもの頃、このあたりには海女小屋があって、海女さんたちがアワビやサザエを焼いて食べている姿をよく見かけました。分けてもらったあの味は、今でも忘れられません」。

そう語るのは、社長の鈴木基進さん。この地で育ち、毎日のように味わってきた魚介のおいしさが、今の商品づくりにも活かされています。看板商品の「アジのさんが焼き」も、そのひとつ。房州の伝統的な漁師料理で、新鮮な真あじなどに玉ねぎと味噌をあわせ大葉を巻いて作る同社の商品は、道の駅などで販売されて人気を集めています。「ほかの地域の原料を使うこともありますが、基本的に本社工場の目の前にある千倉漁港や千葉県全域に水揚げされる魚にこだわって商品を作っています。最近では、衣が薄くてヘルシーなおいしさのアジフライも売れ筋です」。

スズ市水産が水産加工業をスタートさせたのは1987年。もともとは鈴木さんの曾祖父が設立した前身の会社が漁船経営を行っていました。「サバやカツオ、サンマなどを季節ごとに獲っていて、私も22歳の頃から漁に出ていました。しかし、乗組員の高齢化や水揚げ量の低下などもあり、経営が厳しい状況に。ちょうどその頃、国の減船施策があり、やむなく減船を受け入れました」。

当時、鈴木さんは27歳。未経験だった水産加工業への挑戦を決意します。まずは他社の加工場で半年間学び、一緒に船に乗っていた数人と乗組員の奥さんたちの協力で工場をスタートしました。「最初はサバやサンマ、アジを使ったみりん干しから始めました。さらに漁師だった経験も活かしたくて、鮮魚部門も立ち上げたんです。最初は本当に小さな工場でしたが、品質を高めるために現在の工場を建てました」。

これからも地元の魚にこだわって。

スズ市水産では2004年に「天然黒あわび」が全国水産加工品総合品質審査会で東京都知事賞を受賞。これをきっかけに都内の百貨店との取引が増え、高級志向のギフト商品などもラインナップに加わりました。

天然黒あわび

その後も順調に成長を続け、品評会ではさまざまな賞を受賞するなど評価を高めていた同社でしたが、2011年の東日本大震災では原発事故による風評被害に直面します。「預けていた原料が津波で廃棄となりましたが、地震や津波による直接的な被害はありませんでした。しかし、何より深刻だったのが風評被害です。当時は千葉県産の魚も敬遠され、注文は例年の半分ほどまで落ち込みました」。

数年かけて売上は徐々に回復しましたが、失った取引先を取り戻すのは容易ではありませんでした。それでも「ただ“待ち”の姿勢でいるのではなく、むしろ積極的に商品開発、新規開拓を進めていこう」と、鈴木さんは商品開発や販路開拓に取り組みます。そしてアイテム数の増加や販売エリアの拡大を推し進め、震災前の水準近くまで回復させました。

現在、千倉町の水産業も各地と同様に後継者不足の問題が進んでおり、水揚げされる魚種にも変化が見られるなど、今後もさまざまな状況の移り変わりが想定されます。それでもスズ市水産の“地元の魚にこだわる”という信念は揺らいでいません。

「昔は、20隻以上の大型漁船が出ていて、漁のシーズンには数百人の乗組員たちが町中で買い物をしてから沖に出ていました。町全体に活気があった時代です。今はその頃に比べると少し寂しくなりましたが、だからこそ房州の海とともに歩み続けてきた会社として、商品を全国に発信することで地域に貢献していきたいと思っています」。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社

有限会社スズ市水産

住所
〒295-0012
千葉県南房総市千倉町南朝夷1193-12
取扱製品
天然あわびの味噌焼き、アジのさんが焼き、各種フライ製品 ほか