UMIUMA JOURNAL UMIUMAジャーナル

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武輪水産株式会社
2025.09.05

八戸の海とともに、柔軟に、誠実に。

創業77年。“文化エス”と呼ばれる理由。

青森県八戸市鮫町にある、水産加工会社・武輪水産。1948年に創業した、この老舗の歴史はサメを原料に魚粕を作ることから始まりました。「鮫町という地名は『港にサメが揚がっていたから』という説もありますが、実際の由来には諸説あり、はっきりとは分かっていないそうなんです(笑)」と話してくれたのは、同社の2代目となる武輪俊彦社長の長男・俊一さんです。

その後、武輪水産では八戸の漁獲に合わせてイカ、そしてサバの加工と事業を広げてきました。「原料を柔軟に変えてきた歴史こそが、当社の歩みそのものだと言えるかもしれません。漁獲が低迷している魚種があれば、それに替わるような原料を探したり、商品を開発したり。固定観念に縛られない部分は、当社の特徴の一つです」と俊一さん。2011年の東日本大震災では、3つある工場のうち、エビ加工を行っていた第3工場が浸水被害に遭い、加工機などが使用できない状態に。その際にも同社は柱の一つだったエビ事業を取り止め、多方面に事業を転換するという決断を下しています。

また、同社の柔軟性やチャレンジ精神を示しているのが、作業着に記されているローマ字の“S”を丸で囲ったマークです。このSは創業当時にお世話になった“清水さん”という方に敬意を表したもので、同社では屋号を「マルエス」としています。しかし、八戸魚市場では「文化エス」と呼ばれているそう。これは当時の加工といえば干物が主流だったところ、武輪水産では魚油を取ってそれを調味料メーカーに販売するなど、他社とは違うことをしており、周囲はそんな取り組みにモダンな印象を受けていたため、転じて「文化エス」となったのだそうです。また、市場の方がそのような呼び方をしているのは、八戸弁はイとエ、シとスの発音の区別が難しいことから。「マルエス」だと、他社の「マルイシ」さんと同じように聞こえてしまうという八戸ならではの理由もありました。

武輪水産では、商品の質にも強くこだわっています。現在の看板商品は、武輪社長が長年研究して作り上げた、しめさば。継ぎ足しの調味液で、まろやかな酸味に仕上げた逸品です。俊一さんは「しめさば嫌いの方にも好評で、どなたにもおいしく召し上がっていただける自信作です」と話します。

そしてもう一つ、ものづくりのこだわりを示すのが、昔から同社の商品パッケージなどに添えられていた『安心を食卓へ』というタグラインです。「今では当たり前ですが、昔から“安心”を謳っている会社は珍しかったと思います。商品のおいしさや素材、工程には一切妥協しない。そこは最も大切にしている部分です」と俊一さん。2000年に地域の他社に先駆けてHACCP認定を取得するなど、その姿勢は今でも受け継がれています。

八戸のアイデンティティは「海」。

会社のある鮫町で生まれ育った俊一さんは、関東の大学を卒業後、そのままシステムエンジニアとして働き、武輪水産へと戻ってきました。「いつか会社を継ぐということは漠然と考えていました」という俊一さんには、社長からよく聞かされていた話があると言います。それが「武輪の“輪”は“人の和”」という話です。「会社の従業員はもちろん、地域の方々とのつながりも大切にしていきたいと思っています」と俊一さん。「私が会社に戻ってきたのが、コロナ禍が落ち着いた頃で。この会社でみんなと顔を合わせながら、時には新年会や納涼会で集まって話をするのが、とても楽しいし、人との“和”を感じられる瞬間ですね」。

さらに社外の“和”についても、俊一さんは次のように語りました。「地域の色々な方にご協力いただいて、会社を続けることができています。そういった方々へ恩返しするためにも、八戸の魚文化を後押ししていきたいと思っています」。

その思いをかたちにした商品が、2022年12月に発売を開始した「八戸たけわ食堂」シリーズ。“八戸にあったらいいな”と思う老舗食堂のメニューをイメージした商品シリーズで「昔ながらのさば味噌煮」といった懐かしさを感じる商品から、「さばとバジル ガーリックの香味煮」「ほたてのレッドカレー」といった変わり種の商品までラインナップしています。「魚が獲れなくなっているという現状はありますが、加工する技術だったり、地域の魚文化だったり、これまで培ってきたものを大切にしながら、八戸のおいしさを発信していくつもりです」。

最後に地域に対する想いを伺うと、「以前、八戸のとある企画で『地域を漢字一文字で表現すると?』というテーマを、市民から募集したことがあったんです」と話し始め、次のように続けました。「その時に一番多かったのが“海”だったんです。やはり、地元の人からすると八戸は海の町なんです。それがこれからも八戸のアイデンティティとしてしっかり受け継がれていくように、私たちも一生懸命取り組み続けてまいります」。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社

武輪水産株式会社

住所
〒031-0841
青森県八戸市大字佐目町字下手代森32-1
取扱製品
しめさば、いか加工品、塩辛・珍味 ほか