


UMIUMA JOURNAL
「常に自ら造る」「常陸で造る」。伝統を守りながら、新商品に挑戦。
代々受け継がれてきた、素材へのこだわり。
茨城県ひたちなか市に、工場と販売店舗を構える有限会社樫村水産。「干し加工のほか、惣菜加工なども手掛けていますが、厳選した魚を鮮度の良い状態で処理することにこだわっています」と話してくれたのは、代表取締役の樫村義一さんを父に持つ樫村俊亮さんです。

平日でも多くのお客さんが訪れていた工場併設の店舗の暖簾には「五代目常造」の文字。これは樫村水産のブランド名。「常造」とは、義一さんの高祖父(4代前の先祖)、樫村常造さんが由来です。
当時、近くを流れる那珂川がサケの南限になっており、この地域は『西の堺港、東の那珂湊』と呼ばれ、江戸への物流拠点として栄えていたそう。常造さんは那珂川で鮭漁をしており、同社に秋鮭を買いに来る人も多かったと言います。そんな常造さんの名前から「常に自ら造る」「常陸で造る」という意味を連想して、ブランド名となりました。
同社の主力商品は干物と魚の惣菜。干物加工に使う塩は、長崎県五島灘の海水でつくられる「五島灘の塩」。このこだわりの塩で作られる塩水は“秘伝の漬け汁”として30年以上、守り続けられています。「この漬け汁が、素材を引き立て、干物のうま味を引き出してくれるんですよ」と俊亮さんは話しました。

社会のニーズに合わせた新商品が話題に。
何代にもわたって家業を守り続けてきた樫村水産ですが、2011年の東日本大震災では深刻な打撃を受けました。津波の被害はなかったものの、地震によって工場の壁などが破損。また原発事故の風評被害で売り上げが半分以下にまで落ち込みました。

さらに新型コロナウイルスの感染拡大による消費の落ち込みにも直面した同社ですが、新たな機材の導入などにより、新商品を積極的に開発。売上は震災前と同程度まで回復しています。「時代の変化に取り残されないために、よりお客様のニーズに合わせた商品づくりを心掛けています」と話す俊亮さんは、大学卒業後の約5年間、金融機関に勤務。その中で数多くの経営者に会って刺激を受け、会社の経営や商品づくりに挑戦したいと同社に入社しました。「うまくいっている会社は社会のトレンドにあわせて、機敏に対応していました。そういった点は我々も参考にしなければと考えています」。

そんな俊亮さんが手掛けた商品の一つが「SENSAI鮮彩」。同社が培ってきた技術をいかし、スティック状になった3種の骨抜き干物が、彩り鮮やかなパッケージに入っており、優れたデザインに贈られる「いばらきデザインセレクション」の選定部門にも選ばれました。「大学時代に一人暮らししている間、干物屋である私ですら家で魚は食べませんでした。そんな若い世代の人たちに、より手軽に干物を食べてもらうために、骨を抜いたり、手に取りやすいパッケージを意識しました」。
そう語る俊亮さんですが、代々受け継がれてきた干物へのこだわりも忘れてはいません。「これまで干物の質をとことん追求して、突き詰めてきました。それについては『代替わりして味が落ちたよね』と言われないように、これからも大切に守り続けていきます。その上で私たちは普段、あまり魚を食べない人たちにもそのおいしさを知ってもらえるような新しい商品づくりに挑戦していきたいですね」。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社
