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  • 干物
  • 千葉県
有限会社鎌倉商店
2025.01.31

百余年の伝統を守り続ける、イワシの丸干し、煮干し。

旭市でイワシの丸干しと煮干しを手掛ける唯一の加工会社。

千葉県旭市にある水産加工会社・有限会社鎌倉商店は、大正初期創業。その百年を超える歴史の中で、千葉や茨城で水揚げされるイワシを原料に加工を続けてきました。「現在、旭市でイワシの丸干しと煮干しの両方を続けているのは弊社だけになりました」。そう説明してくれたのは、創業者・鎌倉敬三郎さんのひ孫にあたる、専務取締役の鎌倉康成さんです。

そのイワシの丸干しと煮干しを作るために、同社では大切にしているこだわりが。仕上がりが早く、大量生産できる熱風乾燥ではなく、時間がかかる冷風乾燥を用いているのです。「イワシにうまみが残りやすい、冷風乾燥を続けています。おかげさまでうちの煮干しは口コミで広がって、都内や千葉県内のラーメン屋さんなど飲食店で多く使用していただいています」。

また、丸干しや煮干しに並ぶ看板商品の一つがシラス製品です。こちらは30年ほど前に始めたもので、仕上がりを重視して天日干しで乾燥させています。その高い品質は、本格的なイタリア料理店で使用されたり、2023年には旭市が認めた特産品として「旭プレミアム」に選ばれていたりすることからも窺えます。

地元の魚と品質へのこだわりを忘れずに。

2011年の東日本大震災では、鎌倉商店の近所でも津波で川が氾濫し、事務所の玄関まで浸水。同社では建物と工場は少しだけ高い場所にあったため津波被害は免れましたが、地震の揺れによって工場の床にヒビが入ったり、冷蔵庫が壊れるといった被害がありました。

当時、鎌倉さんは都内で学生生活を送っていました。「何度かけ直しても親の電話につながらないので、その時は正直、最悪の事態が頭をよぎりました。その後連絡が取れて無事は確認できましたが、実家に戻るまで少し時間がかかりました。地震の後、当時の技能実習生はみんな自分の国に帰ってしまい、片付けをする人手が足りなかったので、私もパートの皆さんと一緒に大学の春休み明けまで手伝いました」。

その後、自力で震災前と同等の生産能力に回復した鎌倉商店ですが、環境はこれまでとは一変。漁業者の引退などにより原料の確保が難しくなり、さらに原発事故の風評被害で売上が落ち込んでしまいました。

一方、大学卒業後、水産卸会社に就職した鎌倉さん。「もともと鎌倉商店を継ぐつもりはなかった」と言いますが、心の片隅では「伝統を自分の代でも守りたい」という思いが育まれていました。「転勤で地方を回っている中で、日本の水産業界って、地方の小さな漁協や市場、業者、漁師の人たちが支えているんだと気付いたんです。規模は小さくても水産業界を裾野から支える仕事がしたいと考えるようになり、2019年に鎌倉商店に入社しました」。

鎌倉さんは、原料のイワシを買い付けに近場の銚子、九十九里だけでなく、片道2時間以上かけて鴨川や館山まで足を延ばすこともあります。買い付けのコツや目利きは、自ら身につけたもの。しかし、代々受け継がれていることもあります。それは大きく二つ。ひとつは地元の魚へのこだわりです。「地元に揚がる魚を、ずっと大事にしてきたからこそ、ここまで続いてきたのだと思います。時代遅れといわれても、漁師さんがイワシを獲ってきてくれる限り続けたいですね」。

そして、もう一つが品質へのこだわりです。「社会が安値競争になっていても、父は品質を担保するために、決してそこには加わりませんでした。水産加工会社としての本質を大切にしていく姿勢は続けていきたいと思っています」。

そう鎌倉さんは伝統を守り続ける一方、新しい挑戦も視野に入れています。「たとえば味付けに手間を加えたシラスやちりめん、ラーメン屋さんとコラボした煮干しだしのスープ、フライ製品などの新商品の開発なども考えています。これまでの加工法だけにとどまらず、新しい挑戦も始めていくつもりです」。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社

有限会社鎌倉商店

住所
〒289-2513
千葉県旭市野中4209
取扱製品
マイワシの丸干し、カタクチイワシやマイワシの煮干し、釜揚げシラスやちりめんなどのシラス製品 ほか