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2026-03-17

茨城を巡る旅:海の恵みと大地の物語

マルイチ仙台屋商店のしらすから、自然と博物館まで

海の幸と息をのむような自然美を堪能することができる茨城県。東京周辺の観光地としては日光や箱根などが有名ですが、茨城では絶品の海の幸と豊かな自然美を堪能することができます。

数ある海の幸の中でも、「しらす」は新鮮さと多彩な味わいで親しまれている茨城県の名物のひとつです。また、県庁所在地の水戸市は、歴史や芸術、美しい庭園で知られる文化の中心地として知られています。さらに市街地を離れ北茨城市へ足を延ばせば、山々や渓谷、寺院や博物館などが点在し、自然の中でのアクティビティと心静かなひとときを同時に楽しめる環境が広がっています。

茨城県までは、東京から電車や車でわずか1〜2時間で、日帰り旅行や週末のプチ旅行にぴったり。伝統と自然、郷土の味覚と文化が調和した魅力を味わうことができます。

このレポートでは、茨城ならではの美味と絶景を堪能できる、理想的な旅のプランをご紹介します。

マルイチ仙台屋商店からはじまる海の味覚旅

マルイチ仙台屋商店

茨城の旅を海の幸から始めたい方は、ぜひ「マルイチ仙台屋商店」へ。地元で代々続くこの水産加工会社は、新鮮さと確かな品質で信頼を築いてきました。その評判を支えているのが、茨城を代表する味覚のひとつである「しらす」です。

マルイチ仙台屋商店の歴史は明治時代(1868〜1912年)にさかのぼります。当時、マルイチ仙台屋商店は、底引き網漁やカツオ漁に携わる漁師として歩みを始めました。戦後には漁業から海産物加工へと事業を転換し、現在のマルイチ仙台屋商店の礎となりました。戦時中に詳細な記録は失われましたが、口伝と日々の活動によって受け継がれてきた伝統は今も生きており、こうして築かれてきた価値観は、現在でも変わることなく、地域に根ざした存在となっています。

しらす 海からあなたのもとへ

水揚げしたばかりのしらすの検品

マルイチ仙台屋商店の看板商品であるしらすは、その小ささにもかかわらず栄養が豊富。カルシウムやたんぱく質、健康に良いオメガ3脂肪酸を豊富に含んでおり、さまざまな料理に活用できます。しらすは一般的にイワシやカタクチイワシの稚魚で、ほのかな甘みや、調理法によって変化する多彩な味わいが魅力です。

ゆでたてのシラスのクローズアップ
釜揚げしらす丼 いくら添え

しらすの特徴は、加工方法によって味わいや食感が大きく変わる点にあります。獲れたての生しらすは、ほのかな甘みとぷりっとした食感が特徴で、そのおいしさは新鮮なうちにしか味わうことができません。軽く茹でた「釜揚げしらす」は、ふんわりと柔らかい口当たりで、しそ、温かいご飯、ねぎ、醤油、ごま油と合わせた「しらす丼」でいただくのがおすすめです。一方、半乾燥の「しらす干し」は旨味が凝縮され、しっかり乾燥させた「ちりめんじゃこ」は香ばしく保存性も十分。同じしらすでありながら、さまざまな味わい方や料理に使えるのが、この食材の魅力です。

マルイチ仙台屋商店は北茨城の大津港近くに位置しており、新鮮で高品質なしらすを安定的に仕入れることができます。特に夏はしらすの水揚げが最盛期を迎え、大量のしらすが港に揚がります。夏の約3〜4か月間に漁を行い、その後は水揚げしたしらすを保存・加工しながら、一年を通して提供。独自の加工技術に加え、天日干しや釜ゆでといった伝統的な製法も取り入れながら、しらすのおいしさを最大限に引き出しています。

水揚げされたばかりのシラス
新鮮なしらすを洗浄タンクへ

同社の工程は、海の上から始まります。水揚げされたしらすのうち、色や大きさがそろったものを選び、船上ですぐに冷却することで繊細な品質を保ちます。港に着くと、すぐに専用の加工施設に運ばれ、厳格な温度管理と衛生管理のもとで加工が行われます。しらすは鮮度が命であり、水揚げから加工までの時間をいかに短くするかが何よりも重要です。この迅速な対応により、マルイチ仙台屋商店はしらす本来のほのかな甘み、ぷりっとした食感、繊細な風味を保っています。この船上での冷却から洗浄、選別、茹で上げ、保管に至るまでの徹底した温度管理。さらに専用機器を使用することで細菌の繁殖を防ぎ、製品の安全性を高めることで、最高の状態のしらすを安心して楽しめるように仕上げています。

しらすの選別作業
しらすを干している様子

マルイチ仙台屋商店は、茨城の海産物の伝統を守るだけでなく、持続可能な取り組みや地域社会への貢献にも力を入れています。同社は国際的に認められた持続可能な漁業の基準である「マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)」の認証を受け、さらに経済産業省の「事業継続力強化計画」にも認定。茨城の海の精神を受け継ぎながら、伝統と持続可能性を大切に、しらすを海から食卓へ届けています。

マルイチ仙台屋商店の直売店へ

マルイチ仙台屋商店の直売店入口

マルイチ仙台屋商店の加工施設のすぐ隣には直売店が営業しています。商品は整然と並べられ、思わず手に取って見たくなるような雰囲気です。もちろん主役はしらすですが、干物やタコ、イカ、牡丹海老、サバ、アジ、地元で愛されているシマホッケなど、旬の特産品も幅広く揃っています。生ものは最長3日、冷凍品は1年間保存可能で、お土産や旅のあとに茨城の味覚を楽しむのにもぴったりです。

店頭で販売されているパック入りしらす
その他の冷凍海産物も豊富

現在、商品の販売は直売所での対面販売が中心で、一部、福島県内の専門店や小売店で取り扱われることもあります。しかし、最もおいしい状態で味わえるのは、やはり直売所。最高の風味をそのまま楽しめるのが、大きな魅力です。

この新鮮なしらすを手に入れたいなら、観光の後に直売所を訪れるのがおすすめ。東京からのアクセスは電車が便利で、上野駅からJR常磐線に乗り、大津港駅で下車。所要時間は約2時間で、駅からは徒歩8分またはタクシーで数分の距離。車の場合は常磐自動車道を利用して約2時間。近隣には駐車場もあり、茨城の観光スポットを巡る方にも便利です。

その日水揚げされた新鮮な魚を購入

茨城の歴史と自然の名所をもっと巡ろう

マルイチ仙台屋商店は立地にも恵まれており、六角堂や花園渓谷などの周辺観光スポットと組み合わせて訪れるのにも最適です。茨城の海の味覚とともに、文化や自然の魅力にも触れることができます。地域の本当の魅力を知るためには、その食だけでなく、文化や精神性、そして豊かな自然を体感することが大切です。

・六角堂 ― 海辺のパビリオン

六角堂

太平洋を望む岩場の上に建つ六角堂は、茨城を代表する象徴的な名所のひとつです。茨城大学・五浦美術文化研究所の一部であるこの小さな六角形の建物は、その印象的な造形と海に面した美しい立地で知られています。海を見渡すその姿から、「観瀾亭」という愛称でも親しまれており、「波を観る東屋」を意味するこの名は、その役割と精神をよく表しています。まるで陸と海の境界に浮かんでいるかのような姿は、文化的価値だけでなく、写真映えする観光スポットとしても人気です。

海に面して建つ六角堂の側面

六角堂は、1905年に日本画の発展に大きく貢献した美術思想家であり、教育者の岡倉天心によって建てられました。天心にとってこの場所は、海のリズムに身を委ねながら静かに思索を深めるための特別な空間でした。また、同じく日本画の革新を担った弟子の横山大観も、この岩場の海岸で海の移ろいを見つめながら、創作への想いを巡らせていたことでしょう。やがて六角堂は、この地域の芸術的・精神的な象徴として親しまれるようになり、仏教的な精神性と日本の近代美術の美意識が調和する場となりました。

・花園渓谷― 石と水のシンフォニー

花園渓谷の穏やかな流れ

内陸へ足を延ばせば、花園渓谷には、海辺とはまったく異なる美しさが広がっています。澄んだ川の流れによって形づくられたこの険しい渓谷は、迫力ある岩肌に囲まれ、四季ごとに異なる表情を見せてくれます。春には若葉が芽吹き、渓谷や鮮やかな緑に包まれます。夏は川沿いの木陰で涼を感じられ、心地よい避暑地となります。秋には木々が赤や金色に染まり、渓谷全体が燃えるような彩りに変わります。そして冬には岩肌と雪が織りなす、静謐で幻想的な風景が広がります。こうして四季折々に表情を変える花園渓谷は、年間を通して訪れる価値のあるスポットです。

静寂に包まれた渓谷を散策

花園渓谷は、美しい景観だけではなく、さまざまな楽しみ方ができるのも魅力です。整備されたハイキングコースでは、川沿いをゆったり散策したり、岩場を巡る本格的なトレッキングまで、多彩なスタイルで自然を満喫できます。ピクニックスポットでは静かに休憩することができ、澄んだ清流はそびえ立つ岩壁や四季の彩りを映し出す絶好の撮影スポットにもなっています。どのようなアウトドアアクティビティでも、茨城の自然の多様性を実感させてくれる、心に残る体験となることでしょう。

六角堂と花園渓谷は、マルイチ仙台屋約45分、いわき駅からはタクシーで約30分で到着します。花園渓谷は周辺駅から車やタクシーで約30分の距離にあり、スムーズにアクセスできます。

・屋内で楽しむ天心記念五浦美術館

美術館のエントランス

茨城の景観は五感を満たし、そして芸術は心を豊かにしてくれます。ダイナミックな海岸線や渓谷の自然美を堪能した後は、天心記念五浦美術館へ。静かに芸術と向き合う時間を過ごすことができます。1997年に著名な建築家・内藤廣氏によって設計されたこの美術館は、渋谷駅の設計でも知られる氏の代表作のひとつであり、海沿いの環境と調和した印象的な近代建築です。敷地からは福島県や太平洋を望むことができ、その立地そのものが特別な魅力となっています。

岡倉天心の銅像
岡倉天心記念室

その名の通り、天心記念五浦美術館は岡倉天心の生涯と業績を紹介する施設です。日本画運動への貢献を中心に、天心の後を継いだ画家たちの作品も展示され、彼の遺産を今に伝えています。常設展示室では、天心とその周囲の芸術家たちに関連する絵画、資料、工芸品を通じて日本画の精神を感じることができます。また、岡倉覚三としての少年期から、20世紀初頭に日本画を改革した文化人・天心としての晩年まで、彼の歩みを辿る特別展示もあります。なお、展示作品は年に5回入れ替えを実施。これらの資料や作品を通じて、天心の思想の変遷だけでなく、近代日本の新しい芸術的アイデンティティが形作られていく過程も追体験できます。

展示作品(年に5回入れ替え)

さらに、季節ごとの企画展では巨匠から現代の作家まで、伝統と革新をテーマにした多彩な作品が紹介されています。展示室のほかにも、日本画の顔料や染料に関する展示を見学したり、日本美術に関する書籍を揃えた図書室で過ごしたりすることができます。また、館内の小さなシアターでは毎月映像作品が上映されており。岡倉天心の生涯や美術館の歩みを紹介する専用の映像ギャラリーも設けられています。

日本画の伝統的な絵具コレクション

天心記念五浦美術館の開館時間は毎日9:30~17:00(最終入館16:30)。休館日は月曜日、祝日または振替休日にあたる場合は翌日です。入館料は大人210円、65歳以上100円、高校生140円、小・中学生90円で、特別展は別料金となります。チケットは入口で直接購入でき、事前予約は不要。11月13日の茨城県民の日や、土曜日(学校の休暇期間を除く)には、高校生以下は無料で入館できる日もあります。

ラウンジ近くの通路

天心記念五浦美術館は北茨城市の大津港近くに位置するマルイチ仙台屋商店からも近く、アクセスも便利です。東京・上野駅からJR常磐線で大津港駅まで行き、そこからタクシーまたは徒歩で向かうことができます。車の場合は常磐自動車道を利用して約2時間。敷地内に駐車場も完備されています。

茨城の陸と海の魅力を振り返る

花園渓谷の樹冠

太平洋を望む壮大な景色と充実した美術コレクションを誇る天心記念五浦美術館は、自然と文化をつなぐ架け橋のような存在であり、かつて天心やその弟子たちが茨城の荒々しい海岸に惹かれた理由を今に伝えています。茨城で過ごす一日の締めくくりとして、海岸や渓谷のダイナミックな風景とは対照的な、落ち着いた思索の時間を提供してくれます。マルイチ仙台屋商店でしらすや地元の特産品の魅力に触れ、六角堂や花園渓谷といった自然と文化の名所を巡った後にこの美術館を訪れることで、茨城の魅力を余すことなく満喫できる、充実した旅となることでしょう。

六角堂近くの石灯籠

茨城は、長く受け継がれてきた海産文化、守り伝えられてきた芸術の遺産、そして季節ごとに表情を変える自然の景観を通じて、伝統と現代性が見事に調和した魅力を持つ地域です。この土地には日本らしさを深く感じさせながらも、どこか新鮮で特別な物語が息づいています。東京から気軽に訪れることができる場所として、茨城はその味覚と文化など、知られざる魅力を発見する旅へ、私たちを誘ってくれます。