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株式会社マルリフーズ
2025.12.10

松川浦で育まれる、上質な“あおさ”を世界へ。

品質の高さで知られる、松川浦のあおさ。

古くは万葉集にその美しさが謳われ、江戸時代には藩主の行楽地にもなった、福島県相馬市の松川浦。ここは砂州によって海と隔てられた潟湖(せきこ)で波が穏やかなため、あおさの養殖に最適。松川浦で育てられたあおさは食感や香りがよく、とても鮮やかな色味であることが特徴です。

そのすぐそばに工場を構えるのが、あおさの加工を手掛ける株式会社マルリフーズです。「安全・安心・安定供給を大切に、松川浦のあおさを世界に広めたいと思っています」と話すのは、営業部部長の阿部純也さん。その言葉通り、同社は他社に先駆けて安全性を重視してきました。

その契機となったのは約20年前。現・代表取締役社長の稲村利公さんが会社を継ぐために東京から戻ったときのこと。阿部さんは「『自然のものなんだから、異物が入っていて当たり前』という当時の風潮に、稲村は『このままでは消費者に見向きされなくなる』と危機感を覚えたそうです」と話します。その後、稲村さんは浜名湖や愛知、三重、鹿児島といった全国のあおさの産地を巡って研鑽を積み、さまざまな機械を組み合わせた独自の洗浄手法を考案。その結果、目には見えない異物まで除去することが可能になり、業界トップクラスの異物除去技術を誇るまでになりました。

前職で黒のり専門業者に務めていた阿部さんはマルリフーズで洗浄された原料を目にした時のことを「あおさは異物が入りやすい原料なので、ここまで除去できる技術に本当に驚きました」と振り返ります。

そして、その技術の高さは安全性だけではく、商品の品質の高さにも直結しています。同社で加工されたあおさは、鼻をすっと抜ける、あおさ本来の爽やかな風味が感じられる逸品に仕上げられます。

2011年に発生した東日本大震災では、原料となるあおさが流され、工場が全壊するなど甚大な被害を受けたマルリフーズ。工場は1年後に復旧しましたが原発事故に伴う風評被害に悩まされ、松川浦産あおさが手に入らず商品を製造できない中で、他の産地を回ってもリスクを恐れ他産地からはあおさを分けてもらうことはできませんでした。

その後、日本国内や海外にまでヒトエグサを仕入れられないか産地を訪問したり、展示会に参加したりを続けた結果、2014年にようやく愛知県産のあおさを仕入れることができました。マルリフーズは、そこから2021年までの7年間、商工会議所での放射能検査に加え、サーベイメータによる空間線量測定を毎日実施し、安全性を証明。さらに松川浦と他地域の生産ラインを分けるなど管理を徹底しました。

あおさの新しい食べ方を提案。

近年、マルリフーズは新商品の開発にも力を入れており、県内の老舗醤油店や和菓子店とコラボした「かりんとう」シリーズなど、多彩な商品を展開しています。その中でも人気商品となっているのが、2022年に販売を開始した「松川浦かけるあおさ」シリーズです。ご飯にかけたり、パスタと和えたり、松川浦産あおさを手軽に味わえる万能調味料として、福島県産農林水産物を活用した加工食品の中から特に優れた商品を認定・表彰する『ふくしま満天堂プレミアム』ではグランプリ(2023年)、準グランプリ(2024年)を受賞。その評判の高さから、福島県内の道の駅やコンビニなどでも取り扱われています。阿部さんは「“あおさ”というと味噌汁のイメージしかない方が多いので、食べ方の新しい提案として作りました。おかげさまで大変好評いただいています」と話しました。

現在、あおさを含めた海藻類は日本食ブームや健康志向の高まりを受け、海外からも注目されています。マルリフーズでも東南アジアや欧米など、8カ国に展開。国内外を忙しく飛び回っている阿部さんは「『相馬から世界に通用するもの』をという姿勢で商品づくりに励んでおり、あおさの分野ならトップに立てると信じています」と意気込んでいます。

その根底にあるのは漁師の高齢化・後継者不足など、多くの課題を抱える地域の水産業や復興にかける想いです。

阿部さんは「『相馬のお土産といえば?』と聞かれたとき、はっきり答えられる人が少ない。そこにずっと寂しさを感じてきました。けれど実際には豊かな自然があり、あおさをはじめ、おいしい魚介がたくさんあります。こうした魅力を自分たちの手で形にしていけば、前向きに動いてくれる仲間もきっと増えていくはずです」と話し、さらに水産業の枠を超えた地域のこれからについて語ってくれました。

「私たちがロールモデルとして成功できれば、その取り組みが広がり、地域の活性化にもつながると信じています。あおさを世界に広めることで、水産業の発展と、相馬・福島の復興に貢献する。これからも、そんな思いで日々取り組んでいきます」。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社

株式会社マルリフーズ

住所
〒976-0025
福島県相馬市岩子字坂脇77
取扱製品
あおさのり(冷凍製品・乾燥製品)、かけるあおさ ほか