


UMIUMA JOURNAL
三陸の海の恵みを、これからも。
三陸海岸の風景を表現した“三陸海宝漬”。
これまでテレビや雑誌など、さまざまなメディアで取り上げられ、贅沢なお取り寄せや贈りものとして有名な「三陸海宝漬」。年間約10万食が売れているというこの人気商品を作っているのが、釜石市の有限会社中村家です。

今回、取材に応じていただいたのは代表取締役社長・島村隆さん。中村家の始まりは、島村さんのご実家で営んでいた大衆食堂でした。「私も高校生になる頃から、店の料理を作っていましたね」と島村さん。その後、日本料理店で修行を積んだ島村さんは、お兄さんと共に1975年に海鮮料理店として中村家を開店。さまざまなメニューの中でも人気を博したのが、島村さんが考案した三陸海宝漬でした。
「お客様から持ち帰って家族にも食べさせてあげたい、贈答品として大切な方に送りたいという声が多くあり、当初はタッパーに詰めてお渡ししていました」。これがお客さんの間で評判を集め、1996年からは本格的に通信販売を開始。その後、三陸の魚介類を中心に水産加工品の製造・販売を始めた中村家の看板商品となりました。

三陸海宝漬は、まさに中村家の商品づくりのコンセプト「三陸の海を凝縮する」を体現しています。メカブは三陸の海そのもの、イクラは朝日に照らされキラキラと輝く水面、アワビは水面に浮かぶ小舟——そんな三陸海岸の風景をひとつの器で表現しています。
また、中村家の商品には、地元釜石で育った島村さんの体験などから生み出された料理や調理法が多くあります。三陸海宝漬で使用されている、アワビの“だまし煮”もそのひとつです。「子どもの頃、海辺で遊んでいたときに、干潮の潮溜まりにいたアワビが太陽を浴びているうちにゆっくり岩場を移動していたんです」と島村さん。その思い出から編み出されただまし煮は、鍋の中に水、塩、酒を入れて“海”の状態をつくり、そこに獲れたてのアワビを入れ、最初は弱火で少しずつ温度を上げながら煮ていきます。これによりアワビはストレスを感じることなく、旨味を閉じ込めたまま、柔らかくジューシーな食感に仕上がります。


中村家では、このアワビをかたちが崩れないようにひとつひとつ丁寧に手切りし、手作業で美しく盛り付け。そこには島村さんの商品づくりへの想いが込められています。「たとえ遠方のお客様でも、カウンターからお出しする“料理”という感覚を大切にしています。そのために素材や調理には妥協せず、こだわりを持って作り続けています」。
地域の食文化を未来へつなぐために。
2011年の東日本大震災では釜石の水産業も甚大な被害を受けました。中村家では沿岸に設置していた大型の冷凍庫が流され、ウニやアワビ、イクラなど数億円分の原料を失いました。それでも島村さんは「海宝漬を作って全国のお客様に安心してもらいたい」と工房に残っていた原料などをもとに1カ月後から販売を再開。震災前と同様に三陸産の原料が使えるようになるまで5年ほどかかったといいます。

その後は震災以前の売上を達成するなど業績を回復していた中村家ですが、近年は三陸沿岸でも漁獲が不安定に。また、燃料や資材の高騰といった問題にも直面しています。しかし、島村さんはこれまでと同様に地元の食材や商品づくりへのこだわりは変えるつもりはないと語ります。「原料をしっかりと目利きして仕入れたり、調理に手間を惜しまなかったり、ずっと“中村家の味”を変えずにきたからこそ、ここまで皆さんに愛されるものになったと思っています。これからもそういった部分は大切にしていきたいですね」。

品質を保つためにも、あまり商品の数を増やす意向はないという島村さんですが、同社の商品づくりの姿勢はそのままに、現代のライフスタイルに合わせた「海宝mini」といった食べきりサイズの海宝漬なども開発し、注目を集めています。

また、中村家では地域の水産業を守るための取り組みも進めています。そのひとつが2024年から始めた「#シャケノベイビー運動」。これは中村家がパートナー企業や賛同企業と共に、未来の豊漁を目指し、鮭の稚魚放流を支援する活動です。11月~1月の期間中に中村家公式オンラインショップ経由で購入された、鮭・イクラを使用した商品の売上1%を増殖事業に寄付。2025年4月には稚魚の放流活動にも参加しました。
「海宝漬をはじめ、弊社の商品にイクラや鮭は欠かせませんが、岩手県では鮭の水揚げ漁が減少しています。この地域のおいしい鮭やイクラをいつまでも食べられるようにという想いで、この活動を始めました」と島村さん。さらに地域の未来に対する想いを語ってくれました。「昔から海宝漬は地元の名物として、地域の方が贈りものにしたり、東京に出たお子さんに送ったりして広めてくれました。その恩返しとして、少しでも地域に貢献していきたいですね」。三陸の海とともに歩む中村家の挑戦は、これからも続いていきます。
COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社
