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株式会社横田屋本店
2025.10.09

江戸時代から続く、地元・気仙沼への想いを胸に。

“仙台海苔の開祖”となった4代目。

三陸沿岸道路の気仙沼港ICと浦島大島ICをつなぐ、気仙沼湾横断橋(愛称・かなえおおはし)。復興への歩みを象徴するこの橋のすぐそばに、株式会社横田屋本店の赤岩工場はあります。この真新しい工場でインタビューに応じていただいたのは、同社の13代目に当たる営業部課長の猪狩伸忠さんです。

「会社の創業のことを話すと、そんなに古いのは神社くらいじゃないかとよく言われます(笑)」。猪狩さんがそう話す横田屋本店の歴史は、江戸時代の宝永3年(1706年)、初代が遠野から気仙沼に移り住み、廻船業「横田屋」を始めたことにさかのぼります。

「船で三陸の海産物を全国各地に届けていたのですが、江戸へ向かった2艘の持ち船が房総沖で台風に遭い、大破、沈没してしまったようです。しかしながら4代目の猪狩新兵衛はくじけずに、それどころか破損した船と積荷を処分すると、その金を持って江戸で豪快な遊びをくり広げたと聞いています。その人柄が気に入られたのか、日本橋で海苔商を営む桔梗屋五郎左衛門に海苔の栽培をもちかけられたようです」。

当時、新たな事業を模索していた猪狩新兵衛は、江戸の大森から海苔作りの職人を気仙沼に呼び寄せて、養殖を開始。失敗を重ねながらも1857年に養殖を成功へ導き、“仙台海苔の開祖”と呼ばれるようになりました。地元の人々は新たな産業の誕生に感謝し、気仙沼の内湾・神明崎にある五十鈴神社境内には“海苔養殖の神様”として猪狩新兵衛を祀る「猪狩神社」が創建されました。

以降、横田屋本店では気仙沼の新しい産品として定着した海苔をはじめ、アワビやウニ、ホヤ、海藻など、三陸で育まれた海の幸を代々受け継がれる独自の製法で商品化し、多くの人たちに愛されてきました。

2011年の東日本大震災では、八日町商店街にある本店に津波が押し寄せ、天井近くまで浸水。また、気仙沼魚市場に隣接する観光施設「海の市」で営業していた店舗も全壊の状態になりました。「山の手にあった工場は被災しませんでしたが、本格的に商品づくりを再開できたのは約半年後くらいでした。それでも、この地域の中では早く再開できた方だと思います」と猪狩さん。

その後、2020年4月には海苔や乾物、珍味といった小売向け商品を製造する新しい拠点として、赤岩工場が稼働を開始。10月には大学を卒業後、大阪で働いていた猪狩さんが気仙沼へ戻り、横田屋本店に入社しました。「私がちょうど30歳になる年で、“そろそろ海苔の仕入れの目利きなどを身につけよう”と考え、地元に戻りました」。

奇をてらわず、素材のおいしさを全国へ。

「近年、ほかの地域と同様、気仙沼や三陸でもとれる魚介や海藻が変わってきています。その中で変えるところ、変えないところを見極めています」と商品づくりの姿勢を語る猪狩さん。横田屋本店の商品は、どれも昔ながらの手法や味わいを大切にしています。「奇をてらったものではなく、素材が引き立つようなシンプルな味付けにしている商品が多いですね。その時々のブームに左右されない、息の長い商品づくりを続けてきたことが、多くのお客様からご支持いただけている理由かもしれません」。

そんな猪狩さんのおすすめのひとつが、三陸産のホヤを使った商品。その魅力について、ご自身の経験から次のように教えてくれました。「ホヤは五味(甘味・塩味・苦味・酸味・うま味)が感じられて、その人によって味の感覚が異なるほど、奥深く豊かな味わいが楽しめます。ホヤを口にした後に水を飲むと、すごく甘く感じるんですよ。私は体調などによって『今日は甘いな。すこし苦いな』と味の変化を感じます」。

同社では、旬のホヤのおいしさを解凍するだけで堪能できる「おさしみほや」をはじめ、50年以上前から作られてきた「ほやの塩辛」、SNSで試食レビューが話題となった「ほやキムチ」、お酒にぴったりの「ほやのこのわた」などバリエーション豊かな商品をそろえています。猪狩さんは「苦手意識のある人にも三陸のほやのおいしさを感じてもらうために、だれでも食べやすい味にしています」と話しました。

また、同社では原料を大切にする商品づくりへの姿勢はそのままに、新たなかたちの商品も生み出しています。例えば「おてがるばら海苔」「おてがる漁師めし」「おてがるとろろ昆布」などがラインナップしている“おてがるシリーズ”も、そのひとつです。猪狩さんは「どれも原料にこだわりながら、忙しい若い人たちでも手軽に料理に使ってもらえて、食卓を豊かにできる。そんな商品を目指しています」と話しました。

最後に会社のこれからのことについて伺うと「昔から弊社の商品は、地元のお客さんが贈りものにしていただくことが多く、そこから全国へ広まりました」と言い、さらに地域への想いを口にしました。「これまで築いてきた信頼を裏切らないためにも、地域への想いや商品のこだわりはそのままに、さまざまなかたちでこの海の幸のおいしさを多くの人にお届けしたいですね」。江戸時代から脈々と受け継がれてきた伝統と、地元・気仙沼への想い。その両輪を胸に、横田屋本店はこれからも歩みを続けます。

COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社

株式会社横田屋本店

住所
〒988-0084
宮城県気仙沼市八日町1-4-8
取扱製品
海苔、海苔加工品、ホヤ、ウニ ほか