


UMIUMA JOURNAL
青森・陸奥湾で、ほたて一筋。 “ほたて観”を変える、おいしさと挑戦。
社長が現役ほたて漁師だからできる一貫生産。
遠くに八甲田山を望む、陸奥湾の油川漁港。平日の昼下がり、その船小屋で作業していたのは、株式会社山神の代表取締役・神武徳さん。二代目社長でありながら、今も現役のほたて漁師として、毎日海に出ています。
「もう30年近くほたて漁をやっているけれど、水温も潮の流れも、毎年まったく違くて。だからこそ、そのときどきの海の状態に合わせて、育て方も変えなきゃいけないんですよ」。

山神は、神さんの父がほたて養殖に乗り出し、1970年に創業。それ以来、半世紀以上にわたりほたて一筋に歩んできました。養殖から加工までを自社で一貫して手がけ、何よりも「品質の高さ」にこだわり続けています。
「見てください、あそこに八甲田山があるでしょう?あの雪解け水が栄養をたっぷり含んでこの海(陸奥湾)に流れ込み、ほたてが甘く、うまく育つんです」。
神さんが育てている山神のほたては、旨味がもっとも際立つ旬の時期だけを狙って水揚げされます。

水揚げされたほたては、漁港から車でわずか5分の自社工場にすぐ運ばれ、その日のうちに下処理されて商品化されます。「二枚貝はとにかく鮮度が命。すばやく処理することで、味も香りも違ってきますからね」と神さんは言います。
さらに同社では、工場のすぐそばから引いた海水を独自に浄化・滅菌し、洗浄から加工までのすべての工程に使用。この“滅菌海水”にこだわる理由を神さんはこう語ります。
「ほたては真水に浸けると細胞が壊れて、旨味も逃げちゃうのです。うちのほたては、北海道産に比べても甘味が強く、とろとろでやわらかい。それは、この一手間を惜しまないからこそなんですよ」。
この日、深夜2時半から作業をしていたという神さん。「もうすぐ昼寝の時間なので、あとは東山に聞いてください(笑)」と作業場へ戻られました。

山神が変えるもの。守り続けるもの。

本社工場の壁に貼られたポスターや山神のロゴ。そこに書かれていたのは、「ほたて観を変えてゆけ」という力強い言葉。このキャッチコピーの真意について、営業部課長の東山直樹さんに伺いました。
「まずは、本当においしいほたて本来の味を知ってほしい、という思いからですね。実は私自身、もともと魚介が苦手だったのですが、入社してすぐに食べたボイルしたてのほたてに驚いて。それから、すっかり好きになってしまいました」。

山神では、自慢のほたてを使った商品を多数展開。水揚げ当日にボイルと急速冷凍を行って旨味を閉じ込めた「ほたての正直」や、旬の時期のほたて貝柱をオリーブオイルに漬け込んだ「青森県むつ湾産ほたてオリーブオイル漬」など、手軽にそのおいしさを味わえる品が揃います。


2011年の東日本大震災では、三陸の産地などと比べ、加工場への直接的な被害はなかったものの、在庫していた製品・原料が津波により一部毀損、風評被害では約半年ほど海外輸出もストップするなど、間接的な被害を受けました。
また、近年では温暖化の影響などから著しく漁獲量が減少。山神でも豊かな海を守り、自然と共存していくための活動に力を入れており、東山さんは「商品だけでなく、地域全体を見据えた取り組みにも力を入れている」と語ります。
そのひとつが、2020年に構想が始まった「SHELL CYCLE PROJECT(シェルサイクルプロジェクト)」。ほたての名産地であるがゆえに課題となっていた“貝殻の廃棄”に向き合い、資源として再活用する試みです。環境にも体にもやさしい水性ネイルポリッシュ「CYAN(シアン)」や、天然成分100%の洗剤「ホタテノセンザイノウリョク」など、次々と斬新な商品を生み出しています。

また、山神では地域の小学校に向けた職場体験や工場見学も積極的に実施しています。「魚を食べる人が減ると、私たちだけじゃなく、漁師さん、資材業者さん、運送屋さん……地域全体が困ってしまうんです。だからこそ、水産の町で生きる企業として、魚食文化を伝え続ける責任があると感じています」と東山さん。
自然の恵みを大切に育て、おいしさで驚きを届ける。そして、地域とともに歩みながら、新たな価値を生み出していく。山神の挑戦は、“ほたて観”だけでなく、未来をも変えていきます。
COMPANY INFO 今回のつくり手さんの会社
